大辺路自然交流会

「海沿いにある山奥」自然のすばらしさ再確認

大辺路で「観察&交流会」 いちいがしの会・刈り開き隊・やどやの会



 串本町の熊野古道大辺路沿いの自然環境を観察と、自然に関心のある地元の串本、古座川周辺の地域おこしや古道整備団体と交流を目的に「大辺路の自然観察&交流会」が23日に行われた。自然保護団体「熊野の森ネットワーク・いちいがしの会」(竹中清会長、350人)の主催。県内各地から総勢90人が古道整備団体「大辺路刈り開き隊」の道案内で歩き、観察講師を務めた県自然環境研究会員らからは「海のそばに、まるで山奥の谷間のような環境がみられる」と、大辺路周辺の自然環境のすばらしさが紹介された。

 コースは旧串本町の古道を代表する海岸に近い田並〜有田、袋平見からくじの川を経て、橋杭岩までの計約5`。6時間かけて植物観察や昆虫採集などをしながらゆっくり散策したほか、刈り開き隊員で串本町有田の深美富治さん(82)、明石英治郎さん(70)、田並の町文化財審議員の河野九一さん(73)が古道の語り部を務めた。


 田並〜有田は昨年に刈り開き隊が開いた古道で、カズラがからまりヤブツバキの多い海岸らしい照葉樹林が特徴。袋平見〜くじの川はシイやイスノキなどの立派な木や屋敷跡が残る袋平見、くじの川は田園風景が広がるなど、景観だけでなく、自然環境も変化に富んだコース。

 古座川流域で自然や暮らしを考えた観光企画と町おこしをしている「古座川街道やどやの会」(神保圭志、山崎美知子会長)、那智勝浦町で古道を通じた地域おこしを行っている「グランドデザイン那智勝浦」(蜷川勝彦会長)などのメンバーも加わり、交流を深めた。

 串本町有田の串本海中公園で開かれた懇親会で、刈り開き隊の接待を受けながら、いちいがしの会の竹中会長は「山豊かであれば川豊か、そして海もまたしかり。環境がつながった循環のシステムごと守ってこそ、本当の景観保全になる。大辺路沿いのこのすばらしい環境を守るため、人も自然もつないで、みんなで力を合わせて熊野らしい自然を再生させる活動をしていきたい」とあいさつ。

 やどやの会の神保会長は「自然の役割を知り、人が壊してしまった自然を再度見直しながら、みんなで環境をよみがえらせる作業をしないと。今後の自然活動に発展しそう」と話した。


 ゴール地点の橋杭海水浴場では、観察講師から観察結果が報告され、講師の弓場武夫さんは、道を歩きながら、紀南らしい名前のつく植物など、すぐれた自然の特色が感じられる道であることが紹介された。

 講師の水野泰邦さんは総評して「紀南の自然に本来多かった樹木がたくさん見られ、同じ古道でもほとんどが植林に覆われた中辺路とは違って、温かい古道だった。林冠がまるでくしをなぜ付けたようにになっているのは、潮風の影響から、木々がスクラムを組んで一体となって林を守っているから。その一部が壊れると、潮風が一気に林の中に入ってきて、生態のバランスが壊れるという危うさの中に保たれている自然。古道を整備する際、この貴重な自然も堪能してもらえるように、自然とともに道を守ってほしい」。

 また、講師の後藤岳志さんは「くじの川の田園の道は、自然観察で1日中楽しめる魅力的な場所。串本より北にはすっかり見られなくなったワレモコウがたくさんあった。田んぼの手入れのため、山すそを草刈りする生活が保たれているから残っている。大辺路には、よそでは無くなってしまった自然がいっぱいある。山は2次林でも、海からちょっと入るだけで、まるで山奥の谷間のような環境が楽しめる」。

 いちいがしの会副会長で県自然環境研究会の玉井済夫副会長は「大辺路の自然の魅力は、海の中にまでつながっている。ラムサール条約への登録の見通しがあるように、サンゴをはぐくむ熱帯の海もこの森林の延長線につながってある。大辺路は、多彩な生命をはぐくむ環境の中に築かれている道だと実感できる道」と語った。

 交流を終え、刈り開き隊の辻田代表は「世界遺産の熊野古道の多くが失った自然の魅力が、大辺路には多く残っていることが実感できた。大辺路古道の環境整備の上で自然環境保全、再生は、今後ますます重要になる。いちいがしの会や自然に関心ある人々と連携し、多彩な特色をもつ古道沿いの植生などをさらに調査し、大辺路の価値を高めたい。大辺路にも放置植林も多く、せっかくの樹相を台無しにしている。林業活用をしないのであれば、地権者と相談して自然林として回復させたい」と話していた。


                                               レポート おけいちゃん


トップページに戻る